被差別部落に生まれた青年の葛藤を描いた映画「破戒」(原作・島崎藤村)が7月に全国公開される。
部落差別の根絶をめざし、1922年3月3日に当事者たちが創立した「全国水平社」。100周年を記念して制作された映画で、京都市左京区で3日に開かれた記念集会で先行上映された。
上映に先立ち、主人公の青年・瀬川丑松役を演じた俳優の間宮祥太朗さんと映画監督の前田和男さんが対談し、撮影の舞台裏や映画の見どころを語った。
間宮さん 初めて読んだ原作に「心を込めて演じたい」
間宮 去年8月に京都で撮影をしました。ものすごく暑かったんですけど、撮影は静かに着々と進みました。
前田 去年夏ごろにクランクインして、先ごろ完成したんですけれども、みなさんのおかげでいい映画になったと思います。この映画を見て、部落問題を知っている人も知らない人も、分け隔てなくざっくばらんに語り合うことのできる空気を醸成するきっかけになればと思っております。
司会 主演のオファーが来たときはどんな気持ちでしたか。
間宮 実は「破戒」の原作を読んだことがありませんでした。主演を引き受けさせていただくまでに原作を、その後、台本を読ませていただきました。普遍的な映画になる予感がしたので、心を込めて演じたいなと思いました。
司会 真剣に向き合いたいという思いでしょうか。
間宮 そうですね。自分の体や言葉、感情を通して主人公の丑松とその周りの背景にある物語がストレートに伝わればいいなと思って演じました。
前田 この映画のプロデューサーと30年くらいの付き合いがあって、部落差別の問題であったり人権問題だったりをテーマにドラマなどをつくってきました。ですから「今度、破戒をやりたいんです」と聞いたときは、特に驚きもせず、「ああそうか」という感じでした。われわれが積み上げてきた仕事の延長上に「破戒」があった。(「破戒」は)目標でもあったということです。
司会 役作りについて。
間宮 演じる上で一番意識をしたのは、あくまで丑松の日常、丑松がどう居るかっていうところでした。静けさみたいなものが出せるように意識しました。とにかく静かに、静かに世間と自分を見つめながら、日々を生きている印象。その静けさをすごく意識しました。
司会 監督からは何か指示を?
前田 そうですね。丑松というのは、常に不安、孤独、恐怖、悔しさといった、葛藤と苦悩にまみれたネガティブな感情が渦巻いている。そのなかに志保(役・石井杏奈)に対する恋心だったり、友人の同僚・銀之助への友情だったり、子どもたちに対する親愛の情だったり、正と負の感情がぐるぐるしている。その感情をどう表現していくかっていうのは、映画俳優が映画俳優であるための「命」であると僕は思っています。(木下恵介監督や市川崑監督が作った)過去の「破戒」2作で演じられた丑松とは違う地平に立とうと話した。そういう意味で、間宮祥太朗は違う次元にいってしまった。
前田監督「山の向こうの大きな希望へ」
司会 それほどいい演技でしたか。
前田 ええ。あのね、一つだけ…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル